泰山で封禅する?

2005/09/26 19:42

留学先の学校の二度目の団体旅行は、山東省だった。
留学生たちが漢学院の老師に引率され、硬臥に乗って山東省へ向かった。



季節は、真冬。



当時、私は中国国土の広さを甘く見ていた。


西安の気候と山東省の気候―この二者間にどれほどの差があるものか…?
と言う点に考えが及ばなかった。


このことが、後々私を苦しめることになろうとは。





まず行きの硬臥
薄い防寒対策で出かけた私は
硬臥最下段に眠る事になり、みんなが就寝するのを待って眠りについたのだが


夜半、寒さで目が覚めた。


当時乗った電車、
暖気の設備はあるものの、まったく 暖房が効かず
隙間風が首筋や背中をスウッと撫でて通り過ぎ、冷気が列車中に満ちていた。


いくらペラペラの毛布を 体中ぴったり隙間なく巻きつけても
 足先から
 首筋から
 胴体から
 冷気が忍び込み…


「もぅあかん。体内から暖まらんとこのまま凍死」


生命の危機を感じ取った私は、熱湯を汲みに列車の連結部へ向かった。





連結部へ向かうドアを開けた途端、
それまでとは比べ物にならない冷気が私の頬を刺した。


連結部は、凍…っていた。




窓の隙間からだろうか?
刺すような冷風がびゅうびゅうと車内に吹き付けてきた。



―ここは本当に電車の中なのか??


その時、私は心底から
フリースの上着とスニーカーの軽装備でほいほい出てきた自分を責めた。






山東省旅行の(私的)山場は泰山だった。


かの"秦の始皇帝"もその山で封禅を行ったという、泰山。


古代の歴史にそこはかとない憧れを持つ私は、
泰山に登って、その頂で古代中国皇帝と同じ風景を見る事を楽しみにしていた。




しかしその泰山登山も


到着時から曇っていて、今にも泣き出しそうな空模様。


なんとか晴れろ!との祈り空しく
曇り空で、肌寒い中の登山となった。




登っているうちに、汗ばむほど体は熱くなったが、
結局登山中にかいた汗が後々自分の体温を奪うことに。
 ("汗"としては立派にその役割を果たしたわけだが)



登るにつれ、天気はどんどん悪化。
同時に不気味な靄がかかってきた。


前方も後方も 白い靄の中(視界ゼロ)。



もちろん景色などは望むべくもない。



雨が降っている訳でもないのに濃い霧が全身を濡らし
登山の前半でかいた汗との相乗効果で、体温を奪う。



濡れないように…というよりは、
むしろ防寒のためレインコートを羽織る有様。



先へ進むと
ますます霧は濃くなり、ついには前方数メートルしか見渡せない程に。



さらに悪い事に、雨までもが降ってきた。


ひんやりと冷たい雨が。



このあたりで、
私のIXYが寒さのあまり 稼動しなくなってしまった。
 服の中に入れて暖めて、やっと動くような状態。
 寒いとカメラも壊れるのか…と学習させてくれたのも泰山だった。




濡れそぼってよれよれに疲れ果てた私たちは、いくつかの小グループに別れ
(もう誰が居るのか、それとも居ないのかすら見えない)
お互いを見失わない事だけ考えながら、黙々と登った。




ある時突然、開けた場所に到着した。


目の前の壁には(はっきりとは見えないが)
何か文章が掘り込まれているようだ……これは……頂上!!??


Σo(◎ ∀ ◎*)
ヤッタ〜!!!着いた!!
ついにやり遂げた!!!



その場所で記念撮影。


さらに階段を登って、見晴らし台に。


その見晴らし台よりも上に登る道を見つけられ無かった私は、
(白い霧で見晴らせない)見晴らし台を記念に撮影し

そして私たちは意気揚々と下山した。






あの真っ白な世界で
雪がうっすらと積もった、濡れて滑りやすい山道をスニーカーで登り続けた訳だが


奇跡的に一人の遭難者も無く
皆無事に登山口のマイクロバスに戻った。




全員が、例外なく頭はびしょぬれで、歯の根も合わぬ震えよう。


しかし、全員が達成感に溢れていた。








さて


下山後、震えながら知った衝撃の事実がある。




私たちが頂上だと思っていた場所は、
途中休憩所だったという、あまりに残酷な事実。



―旅の恥はかき捨て。